[外食レストラン新聞(日本食糧新聞社)] (2010/08/01)

去る5月28日、米国アップル社の新しいタブレット型パソコン「iPad」が日本でも発売された。

発売からわずか2ヶ月で200万台を売り上げたという米本国での人気を背景に、日本でも多くのテレビ局が発売を待って路上に並ぶ人々を取材し、活字メディアも軒並みiPad特集を組んで話題を盛り上げたのはご存じだろう。

筆者も、発売初日にiPadを購入した知人から、数日後に実物を見せてもらったが、確かに魅力的なマシンだ。他に呼び方がないため、「タブレット型(画面入力型)パソコン」と呼ばれているが、実際に手に取ると「パソコン」のイメージはない。薄型で軽く、液晶画面だけが付いた1枚のボードのよう。すべての操作は、この液晶画面上で行い、インターネットでデータをやり取りするのが前提だから、CDやDVD、ハードディスクなどの記録装置もない。本体の厚みは旧型のiPhoneとほぼ同じなのだが、iPadの方が大きい分だけ、感覚的には薄く感じる。重量も、無線LANのみの搭載機種では680gという軽さで、日本人でも普段持ち歩くのにさほど苦痛はないだろう。バッテリーは動画や音楽を再生しても10時間保つというから、電源アダプターを持ち歩く必要もないわけだ。

そもそも「iPadとは何か」を、あえてひと言で言えば、iPadはすでに世界中で使われているアップル社のスマートフォンiPhoneを大きくしたものだ。大変乱暴な言い方なので、お叱りを受けるのは覚悟の上だが、実際に触ってみれば、これが音声通話のできない超大型のiPhoneなのだという実感は判ってもらえると思う。実際に、iPadの操作方法は基本的にiPhoneと同じだし、ダウンロードできるアプリケーションも同じように使える。つまり、iPadはスマートフォンのように日常的に携帯できるパソコンなのだ。パソコンを持ち歩く人は限られているが、iPadを自宅に置いて使う人はいない。インターネット環境とともに、携帯電話のように常に手にして使う情報端末というわけだ。

米国アップル社の発表によると、今年4月の時点でiPhoneの世界販売台数は5000万台だという。iPadは、当面そこまでの伸びはないにしろ、多くの予測を超える売れ行きを見せている。

つまり、今後、世の中の多くの人々が、iPhoneやiPadのようなインターネットにつながった情報端末をパーソナルに持ち歩く時代が来ると予測される。しかも、その端末は、写真や動画などを鮮明に再生し、電子メールやツイッターのようなコミュニケーションツールによって、リアルタイムに人々に情報を拡散する。

そうした時代が来るとき、多くのビジネスの「販売促進」活動の概念は根底から変わる。いや、すでにもう変わっているのかも知れない。飲食店の現場で、来店したお客が感じたこと、体験した事実、スタッフの言動、メニューの見栄え、店側の対応、そしてトイレの清潔感まで、インターネットを通じて写真やビデオ付きで世界中に配信されるようになるのだ。そんな時代になれば、建前のキャッチコピーとスタジオで撮影した写真で作り上げた広告チラシのような情報は、ほとんど役に立たなくなる。

顧客にとって本当に重要なことは何なのか。それを実践し、かつ店舗の現場でそれを正しく顧客に伝えるにはどうすれば良いのか。見せかけだけの「販促」は通用しない、本物の価値だけが生き残る時代がやってくるのかも知れない。

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